すべてはフィクションです。

私の身体はひとつだし、私の頭もひとつ。

ひとつの身体でひとつの頭でふたつの奴隷を演じている。


ひとつの主は、過去に私を棄てた人。

知ってか知らずか。偶然かわざとか。私にまたコンタクトを取って私は何も言わずにまた主に飼われている。主も又何も言わない。以前に連絡を取っていたSNSを一切聴いてこない処が過去を物語っているのかも知れないけれど。


私を主従の虜にしたのは恐らくこの主で。穏やかでそれでいて的確に触れられたくない所を突いてくる。私の頭では到底答えられないことを投げ掛けて上手く答えられたらいい子だと褒める。要求に合った写真を送れればかわいいと褒める。その言葉や行動のひとつひとつが自分を認めてくれた様に感じて手離したくなくて、気に入られたくて今度は棄てられたくなくて、彼方から連絡が来た時だけ犬の様に尻尾を振って返事を返す。そんな関係。

他の男性に抱かれるのは禁止、所有物だから自分で自分に傷を付けることも許されない。暫くしたら会う口約束、を結んでいて私に付ける口枷も有って。会ったら傷物にされるそうだ。頭の中でぼんやりこの主に会って抱かれて主の物になる事は無いのではないかと思っている。この主は他に主人を作る事は恐らくダメと言うはずで、私が従順で居る代わりに私を所有物にしてくれるそうだ。

ただ、私の他にもうひとり。ペットがいるそうだ。



もうひとつの主は、私の理想とは大きくかけ離れていて乱暴で冷たい。行動も服装も全て写真で管理されていて朝の挨拶も夜の挨拶もその日の課題も必ず。他の男性に抱かれるのやご主人を作ることは勿論禁止。褒められる事も可愛いと言う言葉を囁かれることも無い。私の感情や希望や、そういう事が耳に入る事も一切無い。

生でする事も考えなければならないからとピルを自費で勧められた事もあるし、私が寄添いたい主の像とは真反対。まぁ、従順であることで優しくなったような気がする。そんな程度。

只、主からしたら私は其れなりに適性があるようできっとそんな程度の薄い皮で繋がれているだけの。理想と懸け離れていて怖いと感じても離れる事が出来ないのはそれなりの理由があるからだ。

もうひとつの主と違うのは多頭では無い事。




ひとつでふたつの奴隷を演じていて、勿論どちらにも秘密でどちらにも従順な奴隷或いはペットを演じていてどちらの一番にもなれないことはもう分かっていて、私が理想の主従関係を結ぶことは今回の私の人生の中ではもう無くて、無論私は主従関係の上で人生を歩む事を本当は望んでいないのかも知れない。



いつか、名前も覚えていない様な人にベッドの上で首を絞められた時に感じたあの意識の遠のきを思い出す。周りの音が聞こえなくなって頭が真っ白になって感じる空気が冷たくなった。

私が最期を迎えるなら、どうでも良いどんな人か知らない只すれ違った事があるようなないようなそんな人の体温を感じて死んでゆくのが向いているのではないだろうか。











すべてはフィクションです。